また、映画では「止まらないコンベア」という象徴的なイメージが繰り返し登場します。どんなに大変な状況でも、労働者が苦しんでいようが、物流は止まることを許されません。まさに、現代の大量消費社会における資本主義の冷酷な現実を浮き彫りにしています。雨や風、人災すら関係なく、利益を追求し続けるその姿勢は、ブラック企業の典型的な姿であり、映画が伝えたかった社会批判の中心にあるテーマです。
しかし、その一方で、物流業界を描きながらも、サスペンス要素が強すぎてメッセージがぼやけてしまったという点も指摘せざるを得ません。社会問題に焦点を当てること自体は良い意図ですが、それが物語全体の一部として機能していないため、結果的にメインテーマが散漫になってしまった感があります。物流業界の問題を描くのであれば、その点をより深く掘り下げる必要があったでしょう。
演技力とキャラクター描写
『ラストマイル』では、俳優陣の演技が物語を支える大きな要素の一つでした。満島ひかりはその圧倒的な存在感で観客を引き込みます。彼女が演じる舟渡エレナは、強さと脆さを併せ持つキャラクターとして描かれています。特に彼女の早口で鋭いセリフ回しは、劇中での彼女の立場や責任感を強調しており、観客にエレナが抱えるプレッシャーを感じさせる重要な要素でした。また、彼女の行動には明らかにストレスや焦りが表れており、センター長としての責任を果たすために必死に問題に立ち向かう姿が印象的です。
しかし、キャラクターの描写には一部矛盾が感じられました。舟渡エレナは一見、冷静で計算高いリーダーのように描かれていますが、その行動や動機が途中でぶれることが多く、観客としては彼女の真意や行動の背景が最後まで理解しにくい部分がありました。彼女が本当に何を求めて行動しているのか、また彼女の内面に潜む葛藤が十分に描かれていないため、観客が感情移入しにくいキャラクターになってしまっています。
一方で、岡田将生演じる梨本孔も、もう少し掘り下げが必要だったキャラクターの一人です。彼はエレナの右腕として行動しますが、彼自身の背景や彼が抱える葛藤がほとんど描かれないため、彼が物語においてどのような成長を遂げたのかが不明確です。彼とエレナの関係性も、映画全体を通して発展することはなく、もっと深く掘り下げられていれば、物語の重厚さが増したのではないかと感じました。
阿部サダヲの役柄は、映画の中で際立っていました。彼は、物流センターの過酷な現実に直面しながらも、ユーモラスなキャラクターとして場面に緩急をつける役割を果たしており、映画のトーンを和らげる効果がありました。特に、彼が満島ひかりに反発するシーンや、最後に彼女に自分で仕事をさせようとするシーンは観客にとっての痛快な瞬間であり、彼のキャラクターが観客に共感を呼ぶ重要な要素となっています。阿部サダヲの演技は、映画全体のテンポにユーモアと緊張感のバランスをもたらし、彼の存在が映画のアクセントになっていたと言えるでしょう。